認知的徒弟制とは!?OJTの成功を海外事例から学ぶ!!

2021.01.19

認知的徒弟制とは

(画像は弊社人材開発用語集より抜粋)

「認知的徒弟制(Cognitive Apprenticeship)」とは、伝統的な徒弟制の職業技術訓練をモデルとして、人間社会で古くから長く続く徒弟制に着目し、いわゆる見習い修行の学習過程を認知的に理論化した学習方法のことです。アメリカの認知学者ジョン・S・ブラウン(John S. Brown)やアラン・コリンズ(Allan M. Collins)によって1980年代に提唱されました。

企業が確保・育成すべき人材像として、近年、産業界では業種業態を問わず、「自らの考えで判断し、行動できる自立的・自律的な人材」を求める傾向が強まっています。経営環境の激変や加速するマーケットの多様化・複雑化に対応するためには、何よりも現場の強化が欠かせません。つきつめれば、自分で判断し、行動できる主体的な戦力をどれだけ輩出できるかが勝敗の分かれ目になるといっていいでしょう。そこで注目されているのが、「認知的徒弟制」の考え方です。

認知的徒弟制がモデルとするのは、主に商工業の分野で古くから受け継がれてきた、見習い修行による学びと人づくりの知恵です。例えば伝統工芸などの職人の世界を見ると、見習い中の弟子は四六時中親方につきっきりで学びますが、専門的な知識や技能について、親方が逐一具体的に教えることはほとんどありません。

むしろ伝統的な徒弟制の根底には「教えるコツは教えすぎないこと」という考え方があります。「仕事は見て盗むもの」とよく言われるとおり、弟子は親方の仕事のやり方を観察し、真似をしては試行錯誤を繰り返すのです。自分で考え、創意工夫を重ねるうちに自然と技の極意を身につけ、やがて自立していくわけです。

認知徒弟制における四段階の学習過程

(画像は弊社人材開発用語集より抜粋)

初学者(=弟子)が熟達者(=親方)から学ぶ認知的徒弟制の学習過程には、四つの段階があります。こうした学びのプロセスを企業のOJTなど人材開発の現場に応用するために、四つのステップとしてモデル化したものが以下の概念です。

■第1段階:モデリング(modeling)

学習者が熟練者の仕事のやり方を観察しながら学ぶ

■第2段階:コーチング(coaching)

熟練者が学習者のレベルに合わせた課題を設定し、手取り足取りで教え込み、学習者は失敗しながら上達への道を進み、基本的な知識を一通り身につけます。

■第3段階:スキャフォールディング/足場づくり(scaffolding)

学習者が独り立ちできるように支援する段階であり、自力でできる仕事は任せ、できないところだけ熟練者がフォローします。スキャフォールディングによって学習者自身が内省し、自分自身で上達できることを自覚し始めます。

■第4段階:フェーディング(fading)

学習者が独り立ちできるよう、熟練者は少しずつ支援を減らし、手を退いていきます。これが仕上げのステップです。

これらのステップを踏むことで効果的・効率的に技能の継承が進むと考えられています。

日本企業の人材育成の課題

 

 

現在の日本企業における人材育成の最大の課題は、「自ら考え、自律して行動する人材をどのように育てるか」ということですが、認知的徒弟制は、「教えすぎない」ことを主軸に置いた教育法であるため、自ら考えて行動する人材の育成にはこの手法が適しています。そのため、認知的徒弟制がもたらすノウハウは、OJTを中心とした社員教育に極めて有効的であると言えます。

単に知識を知識として詰め込むだけでは、自ら考えて行動する人材は作れません。認知的徒弟制とは、実践を通した学習によって、知識を実際の状況に即した形で獲得するための手法だと言えるでしょう。

日本の徒弟制度の知の創造サイクル

徒弟制度の技術伝承のプロセスを、形式知と暗黙知の循環からも説明することができます。

第①段階:基礎事項の学習(基本事項の習得、口伝、見ること)

第②段階:実体験(基本の徹底反復、共同作業)

第③段階:暗黙知醸成(試行錯誤、直観力、洞察力の醸成)

第④段階:形式知の表出(ノウハウの言語化、数値化、図表化)

第⑤段階:知識ベース化(形式知の体系化、IT化)

第⑥段階:知識ベースの適用(組み合わせ、応用)

伝統技法の「守」にあたる段階では①、②、③のサイクルを繰り返し、「破」の段階で他所の技法も学んでいきます。「守」の暗黙知活用が形成された段階で、④、⑤、⑥の形式知のサイクルに入っていきます。この手法では、形式知と暗黙知両方の領域で循環できるため、知識ベースだけの活用では成し遂げられなかった技術革新も可能になるのです。

 

用語解説一覧

【経営層向け】
・学習する組織とは?
https://weport.jp/column/learningorganization/
・ミッションステートメントとは?
https://weport.jp/column/mission/
・組織の成功循環モデルとは?
https://weport.jp/column/coretheoryofsuccess/
・組織の7Sとは?
https://weport.jp/column/sevens/
・トータルリワードとは?
https://weport.jp/column/totalreward/
・オープン・ブックマネジメントとは?
https://weport.jp/column/obm/
・コンフリクトマネジメントとは?
https://weport.jp/column/conflictmanagement/
・AQ:逆境指数とは?
https://weport.jp/column/aq/
・EQ:こころの知能指数とは?
https://weport.jp/column/eq/
・SQ:社会的知数とは?
https://weport.jp/column/sq/

 

【マネジャー向け】
・コンピテンシーとは?
https://weport.jp/column/competency/
・リーダーシップとは?
https://weport.jp/column/leadership/
・マインドセットとは?
https://weport.jp/column/mindset/
・OJTとは?
https://weport.jp/column/ojt/
・コーチングとは?
https://weport.jp/column/coaching/
・マズローの欲求5段階とは?
https://weport.jp/column/maslow/
・X理論、Y理論とは?
https://weport.jp/column/xy/
・モチベーション理論とは?
https://weport.jp/column/motivation/
・水平的(360度)評価とは?
https://weport.jp/column/suiheihyouka/
・ピグマリオン効果とは?
https://weport.jp/column/pygmalion/
・レシプロシティとは?
https://weport.jp/column/reciprocity/
・メラビアンの法則とは?
https://weport.jp/column/mefrabian/
・アンラーニングとは?
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【人事担当者向け】
・研修講師を評価するスキルとは?
https://weport.jp/column/kousicheck/
・キャリアラダーとは?
https://weport.jp/column/rader/
・キャリアプラトーとは?
https://weport.jp/column/plato/
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https://weport.jp/column/kolb/
・計画された偶発性理論とは?
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・認知的徒弟制度とは?
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・職能給と職務給とは?
https://weport.jp/column/syokunoutosyokumu/
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https://weport.jp/column/rolemodel/
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